
グンマ南部・太田市の名物といえば、焼きそばや焼きまんじゅうあたりでしょうか。そして食材としては大和芋の名産地だったりします。
県外では「太田市尾島産の大和芋です」なんて特選素材みたいに出してくれるお店もあったりして、おケツこちょばゆい思いをすることも。
でも現地には大和芋専門のお店ってほとんど無いんですよね。メニューの一部に取り入れているお店はあるんですけど。

そんな中で数少ない大和芋料理専門店の一つが「朝日家」さん。すぐ近くにある世良田東照宮ほどではありませんが、長い伝統を誇る老舗中の老舗。
建物からして歴史を感じます。駐車場は広い庭のどこでもOKみたい。
中に入ると一番乗り。テーブル四卓のうち一卓は食器置き場となっているようで実質三卓、全部で十席くらいでしょうか。店内奥のテレビ下に座る大女将さんが「いらっしゃい、どこでもどうぞ」とニコニコ迎えてくれました。
厨房から出てきた店員さんが開口一番「とろろ定食になりますけどよろしいですか?」と。
以前は抹茶付きのとろろ御膳やとろろ蕎麦などありましたが、現在は850円のとろろ定食のみとなったようです。たぶん疫病の時に負担を減らしたのでしょう。とろろを食べに来たので一向に構わんです。

冷たいお茶をいただくと、大女将がおしゃべりを開始。
大女将「いつもは猫がいるんだけど、今日はどこか行っちゃったねえ。前はね、この辺に犬がいたんだけど、猫の方が構わなくていいから楽チンだねえ」
あ、猫店長の接待もあるんですか?そういえば入口脇にカリカリが入った器がありましたね。会いたかったなあ。
しかし大女将、とにかくよくしゃべってくれます。待っている間も退屈しません。

ロットがあるのか、後から来たお客さん二組とほぼ同時に料理が出ました。15分ちょっとでとろろ定食の登場です。
店員さん「後から天ぷらをお持ちします。お時間いただいてすみません」
これぞ正真正銘のとろろ定食と思ったら、さらに天ぷらも出るとは。本当に850円でいいのかしら。

おお、麦飯。「刑務所の中」を読むたびに無性に食べたくなるんですよ。なかなか食べごたえのありそうな量ですね。
大女将「ご飯はおかわりしてくださいね」
え、おかわりまでOKなんですか?やっぱり値段設定おかしいですって。

老舗の技がはっきりと出る煮物。こう言ってはなんですが、こんな色の薄い、まるで京都みたいにはんなり美味しい煮物が出るとは‥!醤油と砂糖のプールで煮詰めた焦げ茶色がグンマの基本と思っていた。

汁がわりのミニうどん。キリッと冷えた汁は、これまた薄口醤油のようにクリアな色。うどんは乾麺風の喉ごし良い物。チュルルンと流しこめる、本当に汁がわりの一杯。
この辺で四組目のお客さんが入ってきましたが、時間がかかるということで、大女将自ら謝って帰ってもらったようです。
大女将「せっかく来てくれたお客さんに帰ってもらうんだから、こんな変な商売はないよねえ。ファハハハハ」

そして本当に天ぷらも出た!カボチャにナスにかき揚げ。薄い衣でサクッと軽く揚がり、またまたこう言ってはなんですが、グンマで出る天ぷらじゃないよ‥!下手したら蕎麦屋さんだってフリッターのイトコ分みたいなヤツを出すんだよ?
天つゆもやっぱり醤油の存在感がないこの色味。天丼以外で天ぷらはあまり食べない委員会でしたが、こんな天ぷらなら大好きだぞ。
かき揚げと麦飯なんて今までの人生で未知、でも非常に素晴らしいコンビネーション。

でもなんだかんだで、麦飯最大のオトモはとろろですよね。梅若菜 おおたの宿の とろろ汁。

出汁たっぷりで、ちょっとゆるめのとろろ汁。麦飯が完全に流動食と化し、スルスルと喉を滑りおちていく。
出汁のうまさは他の料理で証明済み。本場の良い芋を良い出汁でのばしているんですから、そりゃうまくないはずがない。
とろろの量はご飯をおかわりしてちょうどいいくらいですが、芋たっぷりの贅沢な一杯にしてごちそうさま。外食の後にこんな胃が軽いのなんて久しぶりだ。
夫婦喧嘩の巻きぞえどころか、のんびり穏やかな気持ちになるお店です。太田観光の際にはぜひ寄っていただきたいかも。受け入れ人数少ないけど。そもそも観光で太田に来る人いないけど。
朝日家 群馬県太田市世良田町1514