母に無茶を言われて来た「和倉温泉 加賀屋」さん。しかも勢いで20階の迎賓室・白韻を取ってしまったという。予約センターに問い合わせの際はお酒を飲まないことをオススメします。
風呂から上がって我々の部屋の係であるIさんと夕食の時間の相談をしましょう。18時半からということで。
Iさん「お飲みものは何をお持ちしましょうか」
手渡された飲み物メニューは石川の地酒がズラリと壮観ですね。前回は萬歳楽だったかな…今回は加賀鳶の山廃純米を四合瓶でお願いします。
Iさん「四合瓶ですね。お二人で飲まれるのですね」
母「私はいらない。生ビールをください」
生はスーパードライ・ヱビス・一番搾り・プレミアムモルツから選べて925円だったと思います。
旅館でなかなかお酒が届かず前菜とにらめっこなんてことが結構ありますが、ここ加賀屋さんは心配なし。スタートダッシュの準備は万端です。
18時25分、Iさんが部屋まで迎えに来てくれて19階の月見茶寮まで案内されます。入口では先ほどの浜離宮コンシェルジュの方もお出迎えしてくれました。
広々とした個室にこれまた広々、8人は座れそうな座卓。しかも掘りごたつ式でうれしい。綺麗に飾られているじゃありませんか。
母「これは着物の帯かな。素敵だね」
母「立派なアケビもあるよ。これも飾りかな。秋らしくてきれいだね」
Iさん「食べてもおいしいですよ。お食事後にお腹に余裕があればいかがですか?」
好物なのでぜひと言いたいとことですが、我々の胃袋ではきっとそこまで届かない。
Iさん「こちらが本日のお品書きになります」
母「あれ、これは手書きなんだ」
Iさん「はい、先ほど入り口にいたあの」
あ、コンシェルジュさんが。はぇ〜、なんでもやっちゃうんですね。
あらかじめ注文しておいた加賀鳶・山廃純米が大きな片口に入って戦闘準備は完了です。
Iさん「徳利に移しますね」
そんなまだるっこしい・・とは言いません。お願いします。
やや、徳利は切子でぐい飲みは触手付きの深淵の何か?ああサザエか。かっこいいですね。
奥にある紫蘇蜜でプロージット・・もなにも、乾杯するようなイベントはなかった。そもそも母の顔など毎晩見ている。
母「あ、紫蘇のジュースだ。おいしいよ」
ほらやっぱり、もう飲んでいるじゃないの。
見るからに秋の彩りな前菜たち。あれ、真ん中のお浸しは刻んだ松茸が入っていますよ。シャキシャキ感が実はお浸し向きだったのか。滅多に食わんから知らなんだ。
母「タコがどうやったらこんな上手に仕上がるんだろうね」
カマスの押し寿司は梅の風味でさっぱりおいしい。どれもこれもお酒がすすむなあ。
母「なんか前に来た時よりもおいしいみたい。これは大変だよ」
一合分くらい飲んだところでお冷やがサーっと運ばれてきたのもありがたい。この辺もやはり加賀屋さんだ。
母が前菜の最後の1ピースを口に運んだタイミングで、Iさんがススーと入ってきました。
Iさん「松茸の土瓶蒸しになります」
きゃー!秋だからもしかしてもしかして〜なんて思っていたらホントに登場した!秋の王者MA・TSU・TA・KE!
Iさん「お好きでしたか?ちょうどいい季節でしたね」
フランスの新聞社のお偉いさんじゃあるまいし、嫌いな人なんていませんって。たぶん。
ちょっと蓋を開けてお宝を改めましょう。ぱかっ、ほわわ〜ん。ああだめだ、香りの多重奏にうっとりクラクラ。
能登エビに太刀魚みたいな魚の切り身に三つ葉に・・松茸!
母「すごくおいしい。いい出汁だよ〜」
ずるい!私も飲まねば。ツイ・・と杯を傾けると幸せが全身を包み込み。しみじみウマい・・汁だけで酒がすっとんでいきますって、ねえ。もちろんエビも全部食べますが。
Iさん「お造りをお持ちしました。お醤油と能登の塩とありますのでお好みでどうぞ」
刺身・器・お盆全部が見事な美しさ。道具は使うと映えるのだなあ。
イカはスダチと塩で歯ごたえを楽しもうかな。梅貝にはしっかり笹風味がついていてミスター味っ子に出てきそうなおいしさ。陽一くん笹が好きですよね。
母「ウニがちっちゃいけど、うんと前に利尻で食べた時くらい甘くておいしいよ」
そんなゼイタクをしていたのか。でも確かに以前気仙沼で食べたトゲトゲが動くウニと同じくらいおいしい。そのままでよし、能登の塩もよし、もっと欲しい〜。
造りの途中で後半戦のメニューを横目でチラリ。このペースなら完食できるかな・・
母「すき焼きの量が心配だね」
なんて言っていたらまたIさんが来ましたよ。あともう一人、能登特産の珪藻土コンロを持った若い板前さん。
Iさん「今から料理人がこちらで焼かせていただきます」
板前さん「こちらが本日の焼物、活きあわびと口子になります」
母「あわび動いてるよ。この三味線のバチみたいのはなんだっけ」
Iさん「干口子といってナマコの卵巣を集めて干したものですね」
前回も食べたはずですよ、たぶん。能登の超弩級高級品です。このサイズではナマコの20匹や30匹分にも当たるかもしれません。
口上の時は緊張していたっぽい若き板前さん(Iさんがキューを出していた)、いざ焼き始めるとビシッと凛々しく素晴らしい手際です。ヒモを包丁で手早く飾り切りにして、炙った口子をのせて焼物が完成!
口子は炙って少し柔らかくなったところを手でむしって食べましょう。ほんの少しクサヤ感のある濃厚な磯の香り!ダメだよナマコ、こんなにウマいものを体内に入れちゃ。
母「これはビールおかわりしなきゃダメだよ」
あらゆるアルコールを奪う魔性のツマミです。
貝の王様あわびはぷっくりしっとり、噛めば磯の香りが立ち上る。このままでもおいしいけれど、お好みで味噌をどうぞということで甘めの味噌をつけても良しです。うまいあわびうまい。
この辺でまた誰か来たぞ。見ればマスクをしていてもわかる大変な美女が・・ああっ、若女将さんだ!
「ご贔屓いただきまして、おかげさまでこんなご時世ですがなんとかやっていかれております」
3回目でご贔屓かどうかちょっとわかりませんが、ご丁寧にありがとうございます。
あわびはうまいし若女将は美しいし、すっかり気を良くしてもうすぐ四合瓶が蒸発しそうだ。日本酒を追加するか、焼酎に切り替えるか・・やあ、森伊蔵があるじゃないですか。ロックでいただきましょう、
焼酎の援軍を得て迎え撃つのは問題のすき焼きです。固形燃料スタイルで来るのかと思ったら違った。大きな塗り椀に完成されたすき焼き風煮が盛られる形。これならいける!
Iさん「お好みで黄身おろしとご一緒にどうぞ」
生卵のかわりに黄身と大根おろしのボールか、これは面白い。そしてすき焼きは能登牛に松茸というダブル主演だった!松茸入りのすき焼きがあるという噂は聞いたことありましたが、UMAではなかったのか!
母「急に味付けがググッと関東に寄ってきたね。すごくおいしい」
関東寄りというか、アマジョッパ大好きグンマ人にもしっくり来る味ですね。だがなんだかんだ上品の範疇には収まっている。白メシにのせれば最強牛丼になりそうだな。
Iさん「フカヒレ入りの茶碗蒸しになります」
おお、アッツアツでトロトロでフカヒレがとろけていく・・全体にトロトロなところで小豆のつぶつぶが面白い。あちぃあちぃ、とろとろ・・ん?まてよ・・
母がゆっくりとすき焼きを食べ終わると同時に運ばれてきて、なんでこんなピッタリの蒸し上がりなんだ?カメラでも仕込んであるのかという完璧なタイミング。これはアレか、Iさんと厨房の連携がすごいのか。
母「さすがにもうお腹いっぱいだよ〜」
Iさん「サラダで少しスッキリするかもしれませんよ〜」
登場したのは太刀魚焼霜サラダです。太刀魚の風味でツマミ力もあり、そばの実のプチプチと濃厚すぎないゴマドレッシングがなんとなく胃を下げてくれる、気がする。
Iさん「お食事をお持ちして大丈夫ですか?」
ギリギリ大丈夫な気はします・・あっ、食事ということは味噌汁があるんですよね。宝山のロックをおかわりで。
母「シメで飲むのはどこでも同じなんだね」
そうなんです。もしかしたらその時が一番好きかもしれん。
Iさん「秋ですのできのこご飯となめこのお味噌汁になります。お味噌汁の海苔みたいのはこの辺で採れる海藻なんですよ」
はぇ〜、きのこ大好き、なめこの味噌汁大好き。とりあえず味噌汁で焼酎を飲んで、ご飯もちょいちょいと・・ご飯と汁の山の風味にふわっと磯が香っていい感じじゃないか。
母「私はもう降参」
こちらはもうちょっとがんばりますよ。
Iさん「大丈夫ですか?能登の栗を使った羊羹とフルーツになります」
母「あっ、ウサギがかわいい。これは食べちゃう」
かわいいから食べられない、ではないあたりがさすがマイマザーですな。いやー、果物は満腹ながらもなんか食べちゃいますね。
母「もう部屋にもどって寝っ転がらないとダメだ。帰ろう」
へ〜いと部屋に戻ろうとすると、少し驚いた顔をしながらも部屋まで送ってくれるIさん。何で驚いたのかな?と後でメニューを見たら・・母よ、どうやら最後の最後に能登ワインゼリーが出るはずだったみたいですよ。
母「ゼリーでもダメだよ、どれもこれもおいしくて食べすぎちゃった!」
前菜の一つ一つから全てに能登の特産品を使ってバッチリ丁寧な仕事、大変おいしゅうございました。もう動けません。 つづく
加賀屋 石川県七尾市和倉町ヨ部80番地