「うなぎ食べたいから買いにいこう」
いきなり絶滅危惧種を食べたがっているのは母じゃないですか。なんて時勢に合わない人だ。
母「老いたる母と絶滅危惧種のどっちが大切なの」
わかりましたよ、行きますよ‥軽く言いますが、母気に入りのうなぎ屋さんは片道120キロ。
ああそうだ、せっかくだから昼飯を食っていきましょう。現地に気になるソバ屋さんがあるのです。
母「おいしいの?」
行ったことないから知りません。
マイナーきわまりない那珂川町、そこのさらに人家が減ってきたところにある地区、小砂(こいさご)。この辺にはポツポツとソバ畑やソバ屋さんがあるのです。
母「こいさごって読めないねー。で、なんでここの駐車場にとめるの?製陶所って書いてあるよ」
そう、ここ小砂地区は小砂焼という焼き物で有名‥いや、有名は言いすぎか。とにかく焼いているんです。そして窯元さんがついでにソバ屋さんもやっているのがこちら、「藤田製陶所」さんの「陶里庵」さんなのです。
母「なんでこの辺にソバ屋が多いって知ってるの?」
それはですね、車であと10分くらい北上すると馬刺しの聖地、馬頭温泉だからですよ‥
母「たまに買ってくると思ったら、こっちの方まで来てたの」
広い敷地に駐車場、陶器の販売所、そしてとんがり屋根の建物があります。これがソバ屋さんたる「陶里庵」さんと思うのですが。
母「静かだけどやってるのかな」
営業中の札ならぬカメがあります。さすが陶器の里と書いて陶里庵。では入りましょう。入口で靴を脱ぐスタイルでした。
店内も広々です‥おや、テーブル席には何か紙が貼ってある。
店員さん「いらっしゃいませー。ちょっと団体さんの予約が入ってますので、奥のお座敷でもよろしいですか?」
どこでもええです。まあ、座敷も広い‥が、その座敷の卓上にも「天ぷら3唐揚げ2」とか書いた紙が多数ありますね。どんだけの団体さんが来るんだろう。
母「おそろしいから急いで食べよう」
さすがバスツアー慣れしている母。団体さんの恐怖を肌で知っておりますね。恐怖を与えている側として‥
そばのメニューはシンプルですね。つけ汁タイプはもりとざる。あとはかけ・とろろ・おろし・きのこ‥うん、これぞソバ屋さん。生そばの持ち帰りもあるのか。
天ぷら以外には何があるのかな?なぬっ、さつま揚げ(げそ入り)とな‥?わざわざ一品料理のトップにいるということは、ここで揚げているのかもしれん。頼んでみようかしら。
写真つきおすすめメニューは天もりときのこそば、あとはミニ天丼つきの定食か〜。ミニ天丼もうまそうだけど、夜がうなぎ確定なのにダブル炭水化物は危険かも。
母「私は天もり」
母はソバ屋で注文するものが決まっているからいいですね‥よし、私はもりそば大盛りとさつま揚げでいきましょう。たまには大盛りくらい食べてもバチは当たるまい。
やあ、網戸からそよそよと入る風が気持ちいい。秋だなあ。そしてのどかだなあ。
母「来る途中にコンビニもスーパーもなかったけど、この辺の人たちはどうやって生活してるのかな」
うーん、群馬の自宅の周りも相当ですが、この辺よりはマシですよね‥車がないとどうにもならなそう。
店員さん「さつま揚げお待たせしましたー」
おっと、ガリガリさん形態で来ましたか。そして素晴らしい香り‥やはり揚げたてか!
冷えて締まったさつま揚げも悪くないですが、やはり揚げたてのフワフワにはかないません。ゲソのコリコリ感もたまらん。うーん、海なし県栃木のさらに山奥なのに、磯の香りを楽しめるとは‥!これはソバ屋酒を決めたくなる。
母「お茶あるよ」
そ、そうですね‥
店員さん「おそばお待たせしましたー」
まあ、シンプルな構成。いいですね。
そばちょこが不思議な色あい。
店員さん「器は全部こちらで焼いたものなんですよー。製陶所の方で売ってますから見てね」
まあ、そうなんですか。
母「面白そうだから見て帰ろう」
あら、言われてみるとソバの皿も似たような風合いだ。金っぽい不思議な色が特徴なんですかね、小砂焼。
肝心のソバそのものは、なんとなく角があるようなないような‥不思議なビジュアルです。失礼ですが、私の脳内メモリと照らし合わせるとあまり美味しそうに見えない。
まあとにかくソバだけ数本すすってみましょう。ズズッと。
・・まあ!こんな時期なのにしっかりとソバの風味がするじゃないですかーやだー。見た目に反して(?)のどごしも良好。これは脳内メモリの更新が必要だ。
次はツユをつけてズズーと。田舎ソバっぽいちょい甘なツユですが、ダシが立ってなかなかおいしい。ソバの3分の2くらいまでつけるとちょうどいいですね。
母「おいしいソバだね」
ねえ、こんなにウマいとは思いませんでした。自分で店を選んでおいてビックリ。今の時期でこれでは、新ソバはどんな香り高いソバになることやら。
母の天ぷらも来ましたね。なかなかのてんこ盛りです。天つゆが別についてくるのは、地味ですがうれしいサービス。
エビ・ナス・舞茸・ししとう・カボチャによくわからん葉野菜にウド‥
母「エビいらないからあげる」
普通コレがメインなんですけどね‥モグモグ。うむ、これは甘辛ダレまみれの天丼にしたくなる。
母「カボチャすごくおいしい。変な葉っぱもおいしいよ」
「変な葉っぱ」はやめましょう。
シソの実ときゅうりの漬物で口直しをして、残りのソバにいきましょう。
ちょっとワサビをつけたり、色々楽しんでズルズルと。大盛りが本気の大盛りでしたね。これで750円はうれしい。
母「天ぷらの中によくわからない物体があるから食べて」
よくわからんものこそ食べるべきかと思いますが‥なるほど、これはよくわからん。
母「何かの花かな?」
花ですね。白っぽいからソバの花?でもそれにしては小さいし、そもそもあんなクサいもの食えませんよね。ではパクリ。
母「どう?」
・・・不思議だ。花なのに玉ねぎというかニラというか、スタミナ系の味がする。ウマいといえばウマい。
店員さん「そば湯でーす」
やあ、これまた綺麗な入れ物‥はいいですが、あのー、花みたいな天ぷらがあったのですが、アレって何ですか?
店員さん「ニラの花ですよー。ニラっぽい味しませんでした?」
ものすごくしました。へー、ニラの花って食べられるのね。そしてニラ味なのね。面白いなあ。
まだ開店直後なので、ほぼ透明なそば湯。無理やり濃くしないそば湯は大好きです。ダシ香るツユをおいしくいただいて、満腹ランチの完了。
母「新ソバの時期に来てみたいね」
さすが母、考えることは同じですね。ぜひ来てみましょう。ああそうだ、製陶所ものぞいていきましょう。
不思議な金色のぐい飲みを買って帰りました。
母「猫の陶器ストラップがかわいかったんだけど」
なぜか子猫の里親になってくれませんかと頼まれましたからね。そこでそんなの買ったら、もれなく子猫もついてきちゃいますよね‥いや、私は一向に構いませんが。ヌッコ欲しい。
母「かまうよっ!また20年も飼ったらこっちが先に片付いちゃうよっ!」
間違いないですな。
陶里庵 栃木県那須郡那珂川町大字小砂2703-9